Dialog in the Dark 2006 東京
昨年このイベントについて知り(参照)、当ブログでも紹介したことがある「Dialog in the Dark Japan 2006」に、先日娘と共に参加した。
先に、マイミクであるくりおねさんの記事を拝見していたので、どんな感じに行われるのか──数名が一緒に体験するワークショップ形式で、"アテンド"がいること──は把握していたのだが、いざ当日、"暗闇空間"に入る直前のカーテンを1枚、2枚とくぐった時には少し緊張した。自分が真っ暗闇の中に入った瞬間、圧迫感を感じるのではないか?平衡感覚を失って眩暈が起きたらどうしよう?娘は平気か?という心配が頭を過ぎったからだ。ところが実際は、真っ暗闇(本当に真っ暗。どんなに時間がたっても目が慣れることのない、てのひらも見えないほどの暗闇)の中に全身すっぽりと覆われた瞬間、なんともいえない開放感を感じた。白杖を自分の手前で左右に動かしながら歩き出すのに、何の躊躇も恐怖もなかった。
さて、ここからはネタバレになるので、参加予定の方はどうかクリックしないでいただきたい。既に体験済みで、私の感想を知りたい方、お互いの感想を交換したい方はどうぞ「Continue reading」をクリックして下さい。
一歩踏み出す毎に、かさかさと枯葉を踏みしめる音がして、草の匂いや土の匂いを嗅ぎ、生い茂った木の葉に触れ、遠くの鳥や牛の声を聞き、丸太の橋を渡ったり、小川に手をつけて水の冷たさを感じたり、一つ一つクリア──こういうところがゲーム感覚──する度にワクワクする気持ちが大きくなり、牧草(藁)が重なったちょっと広い場所では「やっほー」と叫びこそしなかったものの(一応娘の手前なので)跳んだり跳ねたりした。大量の藁のやわらかさに触れるなんてそうそうできない体験だ。古い鉄製のバス停でバスを待ちバスに乗り遅れたので畦道を歩いて民家の縁側にたどり着き、卓袱台の野菜や団扇を確認したりして、参加者が口々にかぼちゃだのきゅうりだのと声をあげていた最中、ふいに私の隣に座っていた娘がしくしく泣き出したので驚いて「どうしたの?」と尋ねたら、何も応えない。すぐに"アテンド"が近づいてきて「大丈夫?」と声をかけて下さり、娘が返事をすると縁側から1メートル程離れた場所に導いてくれた。「何があるか当ててごらん」と言われ、娘がしゃがむのに続いて私もしゃがみ手を突っこむとタライの中の冷えたスイカに触った。タライの水をスイカにかけながら叩くと良い音がし、娘も気をとりなおしてまた歩き出した。
実は帰宅後、娘と"暗闇空間"の地図を描いてみたのだが、私よりも娘の方が詳細に覚えていた。階段の上がり降りした場所や、つり橋も渡った事などを。縁日ではお面や風鈴に触れ、ヨーヨー釣りで実際私はゴムの輪を指にひっかけてパンシャコパンシャコとヨーヨー遊びもやれた。その頃には不思議だが、全く見えないのに出来るし見えるような感覚に浸っていた。それもこれも、明るくいきいきとした声で我々を案内してくれる"アテンド"の存在と、よく声をかけあうユーモアのある他の参加者を信頼していたからだ。そして「見えなくて当たり前」という考えが自分の頭を支配してしまっていて、参加者が全員輪になって線香花火(!)をやった時も、チリチリチリ…パシッパシッという音だけを聞いて、「うわー暗闇で線香花火をやれた」と感激してしまっていた。(大分経ってから、いくら真っ暗闇でも火をつけたら線香花火の明かりくらいは見えるだろうと気づいて、そんなことに全く思いがよらなかった当時の自分に驚いた次第) 最後に玉暖簾をくぐって暗闇茶屋に入店し、マスターから冷えたグラスにビールを注いでもらった時の感激はひとしおだった。右隣に座ったカルピスのグラスを持った娘と先ず乾杯をして、左隣の若い女性と乾杯した時は、お互い同じビールを注文していてグラスの形も一緒だった所為もあるかもしれないが、グラスを1回でカチンと触れさせ乾杯できたことにお互い感動した。
これが私の体験した1時間半の出来事だが、実際には精々30分くらいにしか感じなかった。そして、イベントはこれだけではなかった。終了後に参加者全員が感想を述べあう時間も設けてあって、その時初めて"アテンド"の顔が見れ、そして、全盲であることの立場が、暗闇空間の中と外で逆転することにショックを受けた。
娘が途中泣き出した理由は、後で聞いた所、たまたま誰かの身体が娘の腕に触れ、表面の皮数ミリを数秒間つねられている状態だったらしい。本人曰く、見えないから誰か分からないし「痛い」と訴えられなかったとのこと。今回の体験は娘にとっても私にとっても、大変感慨深いものであった。また是非、2人で参加しようと約束した。
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Comments
わぁ~、参加されたのですねぇ。
私も参加したいのですが、ちょっと遠くて無理!
いつか、参加したいのでした。
Posted by: ラム | August 27, 2006 09:37
ラムさん、こんにちは。
是非是非、体験して頂きたい本当に素晴らしいイベントでした。
しかし、これはスタッフをはじめ運営側は相当な苦労をしているだろうなーとも感じました。訓練が徹底していて、最初から最後まで本当に気持ちよく過ごす事ができました。
Posted by: fumi_o | August 27, 2006 14:42
すごく興味を持ちました。
いつか「お化け屋敷好き」の子どもと一緒に
体験してみたいと思いました。
Posted by: でりさ | August 27, 2006 19:45
でりささん、こんばんは。
主催者側は、このイベントは視覚障害者の疑似体験といった福祉目的ではないとアナウンスしてますが、娘は今回の体験から、道路で杖をついて歩いている方や、ちょっとした段差などに敏感になったようです。
是非是非、お嬢様との一緒の体験をお薦めします。
Posted by: fumi_o | August 27, 2006 21:40
fumi_oさん、記事をご紹介いただきありがとうございました。
私もあれ以来、「暗闇経験者」として点字ブロックや音での案内などが気になるようになりました。多くの方に一度は体験してみていただきたいと思っています。
私は残念ながらヨーヨーを試すところまではできませんでした。めいっぱい楽しまれたきた様子が書かれていて、あの時の高揚感がまた蘇ってきました。もう一度行ってみたいです。
Posted by: くりおね | August 27, 2006 23:20
くりおねさん、こんにちは。
はい、参加前の予想に反して(笑)、めいいっぱい楽しみました。
終了後、私が娘とよく話したのは、私たちはこうして文字で確認できるというのがあるから、一度で覚えようとも暗記しようとも意識しないで日々を過ごしているわけだけど、"アテンドさん"たちのように五感の内の四感を常にフル活用している生活というのは、疲れないかな?というもの。どうなんでしょうね。
私も来年もイベントがあったら是非参加したいです。
Posted by: fumi_o | August 29, 2006 10:28